「若いころの苦労は買ってでもしなさい」。昔は、そんな説教の好きな年長者が身内や職場に何人かいたものだ。今はどうなのだろう。
「空腹の時代」とでもいうべき時間が過去にある。高度成長期と重なっていて何とか生き延びた。かびと日焼けの臭いの染み込んだ古本を読み、古い映画を見て、怠惰の見本のように過ごした。バスの窓から、同年代の若者が、ごみ箱をあさっている姿を見た。「あれだけはしない」。大志などない自分が心の中に引いた一本の線だった。
新潮社の創業者、佐藤義亮は1878(明治11)年、秋田県出身。ちくま文庫「本をつくるという仕事」に経歴が紹介されていた。酷寒の町で読書家の父の購読する新聞や本を読んで育ち、18歳の時に上京。印刷工になった。上司に雑誌への投稿が認められ校正係に異動、やがて会社を興した。菅義偉首相も秋田県の出身。高校卒業後に上京し、働きながら学んで市議から国会議員となり、首相にまで上り詰めたと報道されていた。
臨時国会が終わり、野党が新型コロナ対策や首相の棒読み答弁を厳しく非難していた。内閣支持率の急落した世論調査も報道された。8日に閣議決定した73・6兆円の新しい経済対策で支持は回復するのかどうか。
腹をすかせて読んでいた本の中の「過度の苦労は人を駄目にする」というくだりを思い出した。苦労や孤独は、自信過剰や人間不信のもとにもなる。そんな意味だと理解している。(水)









