髪を結い上げ、耳飾りを付けた高さ15センチの小さな人形(ひとがた)土偶に縄文人は何を祈ったのだろう。細かな装飾の浅鉢形土器にごちそうを盛り付け、竪穴式住居に住む家族が寄り添って食事を共にしたのだろうか―。土中から掘り出された大昔の遺物から、当時の人々の様子を想像したり、謎に首をひねったりするのは実に面白い。苫小牧市美術博物館で開催中の「発掘された日本列島2021」(9月12日まで)は歴史ロマンをかき立て、見応えのある特別展だ。国内各地の遺跡で発見された考古資料の数々に目が奪われる。
1カ所にまとまって出土した大量の小石。焼礫(しょうれき)と呼ばれるもので、火にくべて熱くした石の上で肉を焼いたり、蒸したりした縄文人の調理道具だ。火で直接焼けば、焦げてまずくなる。家族においしく食べてもらいたい―という生活の知恵。現代の私たちと変わらない縄文人の日々の感情や人間味に触れた気がした。
1万年も続いた縄文期に学ぶことは多い。自然から食料を必要以上に取らない「足るを知る」暮らしや平和の維持が持続社会を可能にした。争いによる死亡率は同時代の他国に比べ極めて低いという人骨調査の結果もある。一方で現代文明は便利と引き換えに自然を犠牲にし紛争も繰り返した。戦争の危険性は常につきまとい、気候変動という名の自然の逆襲も始まっている。縄文人の知恵と生き方。今こそ見詰め直してみたい。(下)









