地域への思い

地域への思い

 地域住民の声を聞いて決めていきます―。行政のトップや担当者がよく口にする言葉だ。ただ、行政が住民に提案する段階では内容は決まっていて「理解」を求めることが多い。まして、内容を撤回することなどはまれなことだ。

 今月、苫小牧市植苗地域の課題に長年向き合ってきた方が旅立った。丹治敏男さん。印象に残るのが新千歳空港に係る問題だ。眠らない空港にしようと道と市が、騒音の影響が大きい地域に提案した24時間運用。3年にわたる行政との協議で、「地域のエゴ」「わがまま」と批判されながらも、貫いたのは騒音という負の部分で地域が疲弊していくことへの懸念。だから個人の利益につながるような要望は一切しなかった。

 町内会の会合で割引航空券を求める声が上がったが、住民を説得し、取り合わなかった。行政や企業が積み立てた基金の益金は、地域の小中学生の海外への研修旅行費に充てた。空港が近い地域に住むことが騒音ばかりではなく「子どもたちに住んで良かったと、少しでも思ってもらえれば」との願いからだった。

 航空関係者と太いパイプも持ち、時には知事や市長にも容赦ない質問をぶつけたが、信頼関係は崩れなかった。取材で電話すると、第一声は「まだ首になっていなかったか」。それでも「あんたなら話す」と言ってくれた。空港と共存する地域への強い思いは、最後までぶれなかった。(昭)

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