憎しみ

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 イタリア北部の都市ボローニャで暮らす中村秀明さんは、リリアナ・セグレさんの証言「アウシュヴィッツ生還者からあなたへ―14歳、私は生きる道を選んだ」を岩波ブックレットから出版した。

 セグレさんはユダヤ系イタリア人でナチス占領下で父と共に捕らえられ、アウシュビッツ収容所に送られた。数百キロに及ぶドイツへの「死の行進」を奇跡的に生き延び、1945年5月に解放された。長い沈黙を経て60歳から壮絶な体験の証言を始め、2018年に終身上院議員となった。90歳で活動に幕を下ろした際の「最後の証言」とインタビューが収録されている。

 中村さんは、全国紙で働いていたときの自分の尊敬する先輩。18年に新聞社を辞め、ボローニャ大学で哲学を学ぶ。コロナ禍で外出できない時間を使って翻訳に励み、電話インタビューにこぎ着けた。セグレさんが上院議員になって最初に手掛けたのは「ヘイトスピーチや誰かを中傷する投稿を監視する組織を設ける」ことだったという。

 解放される日、収容所長を拳銃で撃ち殺すことも可能な機会が訪れた。復讐を熱望していたはずのセグレさんはそれでも、拳銃を手にすることはなかった。「憎しみを世の中からなくす必要がある」。セグレさんはこう、日本の若者へのメッセージを中村さんに託した。無関心は差別や偏見の根源であり、無関心に陥らないためには歴史を学ぶことが大事だとも言う。8日は日米開戦から80年。(吉)

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