祖父母の呼び方には独特の温かさがある。共通語のおじいちゃん、おばあちゃんも温かいが各地に伝わる方言は、もっともっと温かい。
農村育ちの自分は、同じ集落に住む母方の祖父母をおじじ、おばばと呼んで育った。近所の父方の祖母はばっちゃん。漁村生まれの家人も父方の祖父母をおじじ、おばばと呼んでかわいがってもらったという。小学館「日本方言辞典」で調べると、先祖は東北地方の人らしい。この辞典には祖父と祖母、祖父母の三つの見出し語の後にざっと数百語が並んでいる。あぶちは沖縄県のおじいちゃん。おじんじは栃木県―といった具合。たくさん例示する行数がない。
盆や正月には故郷へ帰り、祖父母の元気を確かめたり、笑顔を思い出し合う時間のことを指す「帰省文化」という言葉があるようだ。この季節、大都市駅頭でのテレビの取材に「帰りたい」と答える老若の都市生活者の多さに驚かされる。この文化の根強さ、深さなのだろう。
政府は昨年の正月、新型コロナウイルス対策として都道府県境を越える移動の自粛を呼び掛けた。それでもその後、高い棒グラフの山が出来上がった。1年後の敵は新しい変異種・オミクロン株だ。世界各地で強い感染力を見せている。政府はいち早く国際線の帰国予約停止を打ち出したものの、直後に撤回した。岸田首相らの陳謝の中に帰省文化という言葉があった。感染症との闘いは、心の奥の文化とのせめぎ合いでもある。(水)









