復活の夏

復活の夏

 読了すると軽くビールが飲みたくなる小説がある。村上春樹さんのデビュー作「風の歌を聴け」(講談社文庫)を読み直して、そう感じた。時は1970年の8月。海辺の街のジェイズ・バーに集う、常連の「僕」と友人の「鼠」(ねずみ)、介抱した女の子が親しくなり、ほろ苦く過ぎ去っていく夏が乾いたタッチで描かれる。

 札幌は一雨ごとに街路樹の緑が濃くなっていく。カレンダーが1枚めくれ、昨日から水無月に入った。気温が27度を超えて、真夏のような日差しが降り注いだ先日。大通公園を歩いていると、老夫婦がおいしそうにビールを飲んでいた。村上さんの作品を思い出したのは、そんな風景を見たからかもしれない。

 札幌で暮らして5年が過ぎたが、半分都会で、半分田舎のようなこの街を気に入っている。魅力の一つに、大通公園を主舞台に四季折々に開かれる大規模イベントがある。新型コロナウイルスの影響で2年連続中止を余儀なくされたが、この夏、3年ぶりに大半が復活する。5月29日まで開催された「ライラックまつり」を皮切りに、今月8日には初夏の風物詩「YOSAKOIソーラン祭り」も開幕。7月には「パシフィック・ミュージック・フェスティバル」(PMF)、そして「大通ビアガーデン」も再開する。

 道内の新規感染者数は依然、1000人前後で推移しているものの、「ウィズコロナ」へかじを切る。感染対策を徹底した上で、夏を楽しみたい。(広)

関連記事

最新記事

ランキング

一覧を見る

紙面ビューワー

紙面ビューワー画面

レッドイーグルス

一覧を見る