北方領土元島民が「洋上慰霊」 交流停止受け、北海道初事業

洋上で行われた慰霊式で献花して手を合わせる得能宏さん=23日(代表撮影)

 北方領土の元島民らが船に乗り、洋上から先祖を供養する「洋上慰霊」が23日から始まった。日本、ロシア両政府による「ビザなし交流」などがウクライナ侵攻で停止となる中、元島民らでつくる「千島歯舞諸島居住者連盟」と北海道が共同で実施する。洋上慰霊は道として初の取り組み。

 初日となったこの日は悪天候のため、根室港に引き返す途中の海上で慰霊を実施した。道によると、洋上慰霊は8月10日までの日程で計10回行われ、交流船「えとぴりか」が根室港を発着点とし、歯舞群島・水晶島沖と国後島沖の2コースを航行する。元島民ら計約330人が参加する予定。

 慰霊に参加した色丹島出身の得能宏さん(88)は「やってもらって良かった。命を大事にして、(今後)何とかふるさとにたどり着こうと思っている」と話した。鈴木直道知事は「10回すべてを安全に実施し、島に眠る先人のみ霊にわれわれの思いが伝わることを念願している」と語った。

 北方領土への入域を特例的に認めた交流事業は、新型コロナウイルスの影響で2020年度以降見送りとなっている。今年3月には、ウクライナ侵攻をめぐって日本が行った制裁の対抗措置として、ロシアが事業停止を一方的に表明した。

現地行きの機会失われ「海上からでは思いが違う」 参加者 札幌の野口さん
 ロシアのウクライナ侵攻で北方領土訪問の機会が失われる中、元島民らによる「洋上慰霊」が23日から始まった。国後島出身の野口繁正さん(80)=札幌市=は「北方領土に行って、当時のことを話す機会がなくなった」と訴え、「何かやらなければ」との思いで慰霊に参加する予定だ。

 1942年に生まれた野口さんは3歳のとき、旧ソ連兵が侵攻した島から船で脱出。家族と共に知床半島東部に位置する現在のオホーツク管内羅臼町に移った。その後、元島民らでつくる「千島歯舞諸島居住者連盟」に所属。80年代から返還活動を始めた。

 小学生や修学旅行生に語り部の活動を行う傍ら、ビザなし交流などにこれまで30回以上参加。経験がない若い人を交流事業に参加してもらうなどし、2、3世らを同連盟の活動につなぎ留めようと尽力してきた。

 だが、交流事業は2020年度以降、新型コロナウイルス禍で中断。さらに今年、ロシア側が事業停止を一方的に表明し、再開のめどは立っていない。洋上慰霊の際、慰霊の文面を読む野口さんは「北方領土に行って読むのと海の上からとでは思いが違う」と無念さをにじませる。

 同連盟によると、終戦直後、約1万7000人いた元島民は約5400人まで減少。平均年齢は86歳を超え、高齢化が進む。「元島民が動けるうちに、何とか墓参に連れていってあげたい」。こうした思いを胸に、8月4日に洋上慰霊に参加する。

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