口実

口実

 テレビのニュース回顧番組に「彼」が見えた。ロシアの侵攻開始直後、泣きながら一人で避難するウクライナの少年。右手には紙袋。疲れた足を引きずりてくてくと歩いていた。孫と同じ世代が背負った困難に何度見ても胸が締め付けられた。無事に目的地に着けたか。家族とは会えたのか。

 旧ソ連の崩壊は報道で目撃した。西側との和解の時間も目撃したが隣接する旧同盟国との関係の詳細までは学ばなかった。早稲田大学出版部「プーチンの過信、誤算と勝算 ロシアのウクライナ侵略」を読み、不勉強や油断を改めて教えられた。

 プーチン大統領はウクライナを「ネオナチの国」と非難しロシアの侵攻開始の口実にした。ウクライナのゼレンスキー大統領はユダヤ人の両親のもとに生まれ、父方の祖父とその兄弟3人がナチス・ドイツの大量殺りくの犠牲になった。曽祖父母もドイツ兵が自宅に放った火によって焼き殺された―。そのゼレンスキー氏がネオナチ? 元共同通信記者、元モスクワ特派員の松島芳彦氏の著書は、そんなことを簡潔に教えてくれた。

 寒さがかなり苦手だ。経験は多くないが飢えも停電の暗闇も怖い。ロシアはウクライナの発電・送電施設への攻撃を意図的に進めている。プーチン氏がテレビで、記者の質問に答えていた。「攻撃は事実。しかし、誰がそれを始めたのかが問題」。悪びれた様子はない。寒さも戦火も年が明けてさらに厳しさを増すのか。停戦への道は。(水)

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