ウナギの寝床

ウナギの寝床

 昔はよく使ったが、最近あまり耳にしなくなった言葉の一つに「ウナギの寝床」がある。体形に合う細長い空間を好み寝床とするその生態に由来した表現で間口は狭いが、奥行きはある建物の例えに用いられる。胴体の長いわが家の飼い犬がソファで横になる主人の股の間に収まり気持ち良さそうに眠る姿を見て、ふとその言葉と共にかつて行きつけだった繁華街のラーメン店が頭に浮かんだ。

 縦長の店内はすべてカウンター席で、座れるのは12、3人。店員との会話は皆客に筒抜けで突然、知らないおやじが話に割り込んでくるなど煩わしいこともあったが、今となっては良い思い出しかない。新聞記者にとっては銭湯なんかと同様、ネタ探しに最適な空間で「何か面白い話はありませんか?」と問えば居合わせた人が一緒に頭をひねってくれ、後から「情報提供」と電話をくれる人もいた。店は狭かったが、居心地が良かった。景気が良い時も悪い時もそこにいる人たちの心には余裕があったからだ。

 「客は人に付く」とはよく言ったものだ。間口の広さに応じて課税される「間口税」の名残で、一時期多く存在したとされるウナギの寝床。店の構造もそうだが、そこで働く人たちや集まる客も個性的かつ魅力的だった。(輝)

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