「がんばらない」などの著書のある医師鎌田實さんの「死を受けとめる練習」(小学館文庫)に、家畜の伝染病・口蹄(こうてい)疫のまん延を防ぐために処分された牛のことが、農家のつらさとともに紹介されている。2010年4月、国内で初めて感染が確認された宮崎県都農(つの)町のMさん夫婦の体験だ。
全頭殺処分方針が決まっても夫婦の作業は変わらなかった。牛の出産に立ち会い、介助を続けた。殺処分の日の午前3時にも子牛が1頭、生まれた。タオルで子牛の体を拭き、母牛の乳を飲ませ、母牛を寄り添わせた。子牛には「母さんのそばに埋めてもらいなさい」と、母牛と同じリボンが着けられた。子牛は結局、11時間しか生きられなかったという。
高病原性鳥インフルエンザが昨秋から全国で猛威を振るい、過去最悪の1771万羽が殺処分されたそうだ。道内でも昨年10月に厚真町、今年3~4月には千歳市で処分が行われた。千歳の処分数は約120万羽。鳥や卵の移動禁止措置は6日に終わった。しかし、殺処分という恐ろしい言葉や、テレビに映った作業の画像は記憶から消えない。きょうから愛鳥週間。鶏卵の値段や量だけでなく、畜産農家が背負っている家畜の病気や命の重さのことも少し考えてみたい。(水)









