北海道一周に憧れた経験のある人は多いはず。自分もその一人だ。自転車でもオートバイでも、移動手段は何だっていい。広大な北海道を駆け巡る壮大な旅。考えるだけで、胸が高鳴ったものだ。

　Ａさんは今年５２歳。生まれも育ちも苫小牧。高校３年生の夏休みに、一人で北海道一周に挑戦した。自転車は親にひたすらねだった。安くはなかった。第一歩は７日間の日程だった。出発日は忘れたが８月上旬の午前７時、最初の目的地、札幌市に向けてペダルをこぎ始めた。

　長い上り坂で何度も足が壊れそうになった。暗くて狭いトンネルは、猛速の自動車に吸い込まれそうで怖かった。倶知安駅では、ガに意地悪をされた。新聞紙を寝袋と上半身の隙間に詰めて寒さ対策は万全のはずだったが、夜中に目が覚めた。街灯に集まったガが暖まった寝袋に一斉に卵を産んだのだ。手で払っても卵は取れず寝袋は捨てるしかなかった。

　うれしいことも思い出す。後志の共和町では、スイカ農家の人から声が掛かった。「あんちゃん　スイカ食べてけ」。冷やしたスイカまで切ってくれた。あんなおいしいスイカは、初めて食べた。

　あれから３４年。残した道北や道東の旅のことを、ふと考える。おいしいスイカのお礼もしなければならないし。（水）