話題作なので早速読んだ。芥川賞候補市川沙央さんの「ハンチバック」。主人公の40代女性は中学2年の時、教室でもうろうとし意識を失ってから重度の障害者になる。裕福な親が残したグループホームからほぼ外に出ない暮らしでウェブライターとして作り物の風俗店体験記などを投稿しては、収入の全額をシェルターやフードバンクに寄付。ある日、ツイッターでの「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」といった無防備なつぶやきをグループホームのヘルパーに見られていることが発覚し、事態は急展開する。
市川さんも主人公と同じ筋疾患・先天性ミオパチーで人工呼吸器、車いす使用の生活を送る。気管に開けた穴のため生声で長く話せない。弱者の代弁者気取りやマチズモ(健常者優位主義)にいら立ちながら人並みを渇望する。センシティブなテーマを障害の当事者ならではのドライな視点で表現し、私小説的な迫力がある。単行本は100ページ弱だが、立ち止まりながら真剣勝負するような気持ちでゆっくり読み進めた。書くことで自らを表現してきた人ならではのパワーが余韻として残るが正直、まだ消化し切れていない。唐突に視点が変わるラストの展開は賛否分かれており、芥川賞選考会(19日)はどう評価するのか。 (輝)









