夕刊時評  あの夏

夕刊時評  
あの夏

 「考えすぎかもしれませんが、強いといわれる学校と対戦したとき、こっちが北海道だからと、少し下に見られている気がした」。駒大苫小牧の選手たちは、そう感じていた。冬場もグラウンドの雪を除けて、凍った地面でノックを受けてきた。練習の量も質も変わらない。「北海道をなめんなよ!」…。

 早世したスポーツライター、阿部珠樹さんの傑作選「神様は返事を書かない」(文芸春秋)を読んで、あの夏を思い出した。地元苫小牧市民のみならず、道民が熱狂した2004年の夏の甲子園決勝。初回から容赦なく打ち合う消耗戦になり、駒大苫小牧が13―10で愛媛の済美を制した死闘だ。当時主将だった佐々木孝介さんと、監督だった香田誉士史さんの微妙な心理が描かれ、引き込まれた。

 傑作選には駒苫を描いた作品を含め計42編を掲載。最後の4割打者のテッド・ウィリアムズへのインタビューや、1991年の有馬記念を14番人気で本命を制したダイユウサク…。英雄だけでなく、敗者や一瞬だけ輝いた伏兵も登場する。

 スポーツノンフィクションという分野がある。沢木耕太郎さんや故山際淳司さんらが開拓した。弱者にも目を向ける彼らと、阿部さんの視点は似ている。57歳で他界し、9年目の春を迎える。(広)

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