「すぐに現地の人々に受け入れられる秘訣(ひけつ)」内山安雄の取材ノート

「すぐに現地の人々に受け入れられる秘訣(ひけつ)」内山安雄の取材ノート

 回教国にして、アジアどころか世界の最貧国のひとつとされるバングラデシュを初めて訪れている。

 田舎はもちろんのこと、首都のダッカでも街中を歩いていると、すぐに誰かしら私に声をかけてくる。客引き、呼び込みは当たり前だろう。だが好奇心盛りの子どもたちが、一言だけ知っている英語で話しかけてくる。

「ワッチュ・ア・ネーム?」

 若者やオヤジも親しげに「名前はなんていうの?」とか「お元気?」と片言の英語で挨拶(あいさつ)してくる。

 こっちが返事をすると、それ以上は何もいわずに握手を求めて嬉(うれ)しそうに立ち去る人も珍しくない。目が合っただけで、浅黒い顔をほころばせる人々がそこらじゅうにいるのだ。男性だけではなく、宗教的な理由から外出する機会の少ない女性だって、嬉し恥ずかしそうにほほ笑みかけてくる。

 なぜに日本人のオヤジがこんなにも人々に興味を持たれ、かつ歓迎されるのか?

 現地で知り合った友人たちが、そのわけを教えてくれた。

 外国人だから、日本人だからといって、私が受けているわけではないという。

 いかにも不機嫌そうな外国人、貧しい現地の人々を見下すような外国人、声をかけたら怒りそうな外国人――そんな外国人には決して近寄ったりしないのだとか。

「あなたが歩きながら、いつもスマイルを浮かべているからですよ」

「誰に声をかけられても、あなたがイヤな顔を見せないからでしょう」

「目が合ったら、あなた、決してそっぽを向いたりしないからですよ」

 バングラデシュの人が、好奇心から私をながめているとき、たまたま視線が合ってしまったら、決まって私のほうから笑いかけるようにしている。だから人々は、私がどこにいようとも次々と声をかけてくるらしい。

 そうか、なるほど、スマイルこそがキモだったのか。

 民族が違っても、言葉が通じなくても、ほほ笑んでいる相手に敵意をいだくような人間はいないものだろう。笑みを浮かべていれば、必ずや現地に受け入れてもらえる、時に友情をはぐくめるかもしれない。

 そう信じて実践してきたからこそ、この国でもどうでもいい日本のオヤジが受けたということのようだ。ビバ!

 ★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。

関連記事

最新記事

ランキング

一覧を見る

紙面ビューワー

紙面ビューワー画面

レッドイーグルス

一覧を見る