パリでは和食レストランが大流行している。繁華街はいうにおよばず、裏通りや下町を歩いていても、よく和食レストランの看板が目につく。
だが、その多くがちょっと怪しげだ。門構えもインテリアも純日本風なのだが、いざ食べてみれば、なんちゃって和食というレストランのなんと多いことか。
それもそのはず。老舗や一流どころはさておき、パリの和食レストランの大半が、日本人の経営ではなく、かつ日本の料理人が腕をふるっているわけでもない。主に中国系の人々や日本通のフランス人による経営なんだとか。もちろん板前さんにしても、日本人は人件費が高くつくので雇いにくいという。
こうした経緯で、割安価格で日本食を提供する店は一大ブームだ。が、その一方で値段設定が割高になる日本人経営の和食レストランは、長らく苦戦を強いられている。今や純然たる和食レストランは、パリでは完全なる少数派になってしまった。一説によると、パリの和食レストランの九割が、日本人によるオペレーションではないらしい。
日本人の経営ではないレストランというのは、構えは日本風であっても、いかんせん、味のほうはかなり問題あり、となってしまう。だが、多くのパリジャンは、そんな和食でも本物と信じて疑わないようだ。たとえば――。
グルメを自称するパリジャンの友人が、われわれを食事に招待してくれることになった。
「味オンチの連中は、にせ物の日本食に気づかないんだ。今夜はみんなに正真正銘の和食を食べてもらおうじゃないか」
で、コンコルド広場近くの、見るからに高そうな構えの和食レストランに仲間でくり出す。そしてすしやら天ぷら、鍋物などをどんどん注文してみれば――。
違う! どの料理も微妙に、いや、相当にわれわれの思う日本食からずれている。
招待主に気づかれないように、日本人に見えているギャルソンにそっと尋ねてみる。すると日本語での答えが返ってきた。
「オーナーに余計なことをいうな、とくぎを刺されているんですけど…」
ちゃんとした日本語ではあるけれど、アクセントやイントネーションからして日本人ではないことが一目瞭然である。
口外しないからと断って、さらに質問してみると――。
ギャルソン(ウエーター)の彼を含めて、店のオーナーも料理人も、ことごとく中国人なのだというではないか。
かくのごとく、パリで、いや、ヨーロッパで本物の和食に巡りあうのは、そう簡単ではないようだ。
★メモ 厚真町生まれ。国立苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆で活躍し「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化され、「トウキョウ・バグ」は第2回大藪春彦賞最終候補にノミネートされた。
















